『DIE WITH ZERO』が突きつけた「積立の先」の問題
資産形成の本は「いかに増やすか」を語るものが大半だが、ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO』は真逆の問いを投げかける。「いかに使い切って死ぬか」。
私は38歳、個人事業主と法人代表を併営しながらNISA・iDeCoで運用中だが、明確な取り崩しルールを持っていなかった。50歳で年間配当200万円を達成する計画は立てているものの、「そこから先どう使うか」の設計が空白だった。
本書を読んで気づいたのは、積立設計と取り崩し設計は同時に作らないと片手落ちになるということだ。12年後の50歳到達時に慌てて考えるのではなく、38歳の今から逆算して「使う設計」を組み込む必要がある。
「記憶の配当」と「健康資産の減価償却」の概念を借りる
本書の核心は2つの概念にある。
1つ目は「記憶の配当」。旅行・体験・家族との時間といった「経験資産」は、積立投資と同様に複利で増える。30代で行った旅は50代まで繰り返し思い出され、感情的リターンを生み続ける。逆に言えば、70歳で初めて海外旅行に行っても記憶の配当期間は短い。
2つ目は「健康資産の減価償却」。体力・気力・時間はすべて有限で、年齢とともに確実に減る。60歳で登山、70歳でダイビング、80歳で世界一周は現実的でない。「できるうちにやる」のは当たり前だが、それを資産取り崩しのタイミングと紐づけている点が本書の独自性だ。
私はこの2概念を、50歳以降の配当所得200万円をどう取り崩すかの設計に転用した。
50歳到達時の取り崩しルール3原則を12年前に決める
本書を踏まえ、私が設定したルールは以下の3つ。
原則1: 配当所得は「生活費の補填」ではなく「経験資産の購入」に優先充当
50歳時点で年間配当200万円が入るとして、これを生活費の足しにしてしまうと「記憶の配当」は生まれない。家賃・食費・光熱費に消えた金は思い出にならない。
配当所得は「旅行・学び・家族イベント・趣味」といった経験資産に優先的に回す。生活費は事業所得で賄い、配当は「使い切るための原資」と位置づける。
原則2: 50〜60歳を「取り崩しのピーク期」に設定し、70歳以降は縮小
本書の「健康資産の減価償却」に従うなら、50〜60歳が最も体力・気力・時間の揃う黄金期だ。この10年間に集中的に経験資産を購入し、70歳以降は取り崩しを縮小する。
具体的には、50〜60歳は配当200万円をほぼ全額使い切り、61歳以降は年100万円に減らす。残りは元本温存または次世代への移転に回す。
原則3: 「ゼロで死ぬ」目標は立てるが、リスクバッファとして元本の3割は残す
本書は「ゼロで死ぬ」を理想とするが、日本の社会保障・医療・介護の不確実性を考えると完全なゼロ設計はリスクが高い。
私は「80歳時点で元本の3割を残す」をバッファとし、それ以外は計画的に取り崩す。完全なゼロではなく「ほぼゼロ」を目標とする。
38歳の今から「使う訓練」を始める理由
本書で最も響いたのは「いきなり使えるようにはならない」という指摘だ。50年間「貯める・増やす」だけをやってきた人間が、60歳で突然「使う」モードに切り替えられるはずがない。
私は38歳の今から「使う訓練」を意図的に組み込むことにした。具体的には以下の3つ。
- 年1回、配当所得の範囲内で「記憶に残る旅行」を実施(国内でも可、家族同伴)
- 月1回、事業所得から「経験資産」に1万円を充当(書籍・講座・外食・体験イベント)
- 四半期ごとに「使ったもののリスト」を振り返り、記憶の配当が発生しているか検証
これは50歳以降の本格取り崩しに向けたリハーサルであり、12年かけて「使う筋肉」を鍛える訓練期間と位置づけている。
「積立設計」と「取り崩し設計」は両輪で作る
『DIE WITH ZERO』は、資産形成の片輪だけを見ていた自分に気づかせてくれた。NISA・iDeCoの積立額・運用利回り・目標金額を語るだけでは設計の半分しか完成していない。
「50歳で年間配当200万円」という目標の先に、「それをどう使い切るか」の設計が必要だ。そしてその設計は、50歳になってから考えるのではなく、38歳の今から逆算して組み込むべきものだ。
12年後の自分が「使えない」人間にならないよう、今から「使う訓練」を始める。これが本書を読んで実装した、私の資産取り崩しルールである。