「選ばない勇気」が稼働単価を押し上げる
38歳で個人事業と法人を併営していると、案件依頼の選別が事業継続の生命線になる。『エッセンシャル思考——最少の時間で成果を最大にする』(グレッグ・マキューン)を読んで実装したのは、「受けない案件の基準を言語化する」という作業だった。本書の核心は「より少なく、しかしより良く」。これを私の稼働設計に置き換えると、「工数は減らすが、単価は下げない。家族時間は守るが、信頼は失わない」という二律背反を成立させる構造になる。
本書で繰り返されるのは「何を捨てるか」の判断軸。私が実際に稼働案件をフィルタリングする際に使っているのは、①単価ライン、②家族イベント優先、③対等構造の見極め、の3段階だ。以下、それぞれの実装を記録しておく。
第1段階:工数単価のライン(30,000円/日を下回る案件は受けない)
最初の判断基準は工数単価。私の場合、業界相場を踏まえた基準ラインを設定している。これを下回る案件は、どれだけ「関係性が良好」「将来につながる」と言われても受けない。
『エッセンシャル思考』では「90点ルール」という概念が出てくる。「100点満点で90点未満なら自動的にNO」という意思決定の枠組みだ。私はこれを「単価ラインを下回るなら自動的にNO」に置き換えた。判断基準を数値化することで、感情的な揺らぎ(「断ったら次の依頼が来ないかも」「義理で受けないと信頼を失うかも」)を排除できる。
実際、この基準を設けてから「安請け合い→稼働時間が増える→単価の高い案件を断る」という悪循環が消えた。エッセンシャル思考の言葉を借りれば、「ノンエッセンシャル思考の人は、何でも引き受けて全部中途半端になる」状態から抜け出せた。
第2段階:家族イベント優先(保育園行事・週末の予定との衝突案件は断る)
第2の判断基準は家族時間。特に子供が保育園児の現在、年間行事(運動会・発表会・参観日など)と稼働スケジュールが衝突する案件は受けない。
本書では「優先順位をつける」ではなく「最優先事項を決める」ことの重要性が説かれている。私にとっての最優先事項は「子供から尊敬される存在で居続けること」。これは時間の量ではなく在り方の質の問題だが、具体的な行動としては「重要な瞬間に立ち会う」という形で実装される。
稼働繁忙期(春3〜5月・秋9〜11月)は家族イベントとの衝突頻度が高い。だからこそ、事前に年間カレンダーを共有し、「この週は動けない」と明示しておく。『エッセンシャル思考』が言う「余白を設計する」とは、まさにこの「稼働しない時間をあらかじめブロックする」行為そのものだ。
第3段階:対等構造の見極め(不当な扱いを受ける可能性がある案件は初動で断る)
第3の判断基準は関係性の構造。私が過去に副業で家電修理をやめた理由は、「対面×故障対応×立場が不当に低い×感情労働」が重なったためだ。本書では「トレードオフを見極める」という章があるが、私にとっての致命的トレードオフは「稼働収入 vs 精神的摩耗」だった。
案件依頼の初動段階で「発注側の言葉遣い」「価格交渉の態度」「納期設定の合理性」を観察する。この段階で「対等な関係性」が成立しないと判断したら、単価が高くても断る。『エッセンシャル思考』では「明確な拒否」の技術が紹介されているが、私の場合は「今回はスケジュールが合わないため見送ります」という定型文で処理している。
重要なのは、「断った後の関係性が壊れるかどうか」ではなく、「そもそも対等な関係性を前提にしない相手とは長期的に仕事をしない」という線引きだ。本書の言葉を借りれば、「ノンエッセンシャル思考の人は、他人の優先順位で生きる」。私は自分の優先順位で生きる。
実装の結果:稼働時間は減り、単価は維持され、家族時間は守られた
3段階の判断基準を実装して約2年。稼働案件数は減ったが、工数単価は下がらず、家族イベントへの参加率は100%を維持している。『エッセンシャル思考』が説く「より少なく、しかしより良く」は、個人事業主の案件選別においてそのまま機能する。
本書で印象的だったのは、「エッセンシャル思考は生き方である」という一文。私にとっての実装は、「受けない案件を決める」という日常の意思決定の積み重ねだった。50歳までの12年間、この基準を維持し続けることが、最終的に「呼ばれて行く」働き方へ移行する前提条件になる。
関連書籍
エッセンシャル思考——最少の時間で成果を最大にする
「より少なく、しかしより良く」の方法論。案件選別・時間配分・優先順位設計の思考OSとして機能する。