株式会社とUSサービス(個人事業)の併営で実際に使い分けている3つの判断軸:案件受注・経費計上・社会保険の実務設計

法人と個人事業の併営は「使い分けの設計」が9割

私は株式会社US(法人)とUSサービス(個人事業)を併営している。NDT検査の現場仕事は個人事業で受け、将来的な事業拡張や与信構築は法人で設計する——この構造を作ったのは3年前だ。

当初は「法人化すれば節税できる」という漠然としたイメージで動いていたが、実際に運用してみるとどちらのエンティティで受注するか・どちらで経費を落とすか・社会保険をどう設計するかの判断軸が曖昧だと、税務も資金繰りも混乱することが分かった。

税理士との会話で「この案件は個人で受ける理由」「この経費は法人で落とす理由」を言語化し、運用ルールとして固めた3つの判断軸を整理する。これから法人成りを検討している個人事業主や、すでに併営しているがルールが曖昧な人の参考になれば。

判断軸①:案件受注はどちらのエンティティで受けるか

最初に決めるのはどちらの名義で請求書を出すかだ。私の運用ルールはこうなっている:

  • 個人事業(USサービス)で受ける: NDT検査の現場仕事・単発案件・既存取引先からの継続案件
  • 法人(株式会社US)で受ける: 新規取引先との初回契約・将来的に拡張可能性のある案件・与信が必要な取引

NDT検査の現場仕事は個人事業で受けている理由は、社会保険料の負担を抑えるためだ。法人で受注すると役員報酬を上げる必要があり、社会保険料が跳ね上がる。私の場合、役員報酬は月50,000円に抑えて社会保険の最低基準を維持する設計にしているため、現場仕事の売上を法人に入れると設計が崩れる。

一方で、新規取引先や将来的に事業拡張の可能性がある案件は法人で受ける。理由は与信と継続性だ。個人事業主名義だと「この人が辞めたら契約も終わり」と見なされるが、法人名義なら「会社として継続する」前提で取引できる。スモールM&Aを視野に入れているため、法人側の取引実績を積む意図もある。

判断が迷うのは「既存取引先からの新規案件」だ。これは案件の性質で決める。単発の検査業務なら個人事業、複数年契約や設備診断のような継続案件なら法人——という基準を税理士と確認している。

判断軸②:経費計上はどちらで落とすか

次に決めるのは経費をどちらで計上するかだ。これは「その経費がどちらの事業活動に紐づくか」で機械的に判断できる。

  • 個人事業で計上: 現場で使う工具・計測器・出張旅費・NDT関連の書籍・車両関連費用(ガソリン・車検・保険)
  • 法人で計上: 事務所家賃・水道光熱費・税理士報酬・融資関連費用・M&A関連の情報収集費用・法人名義の契約(ドメイン・サーバー等)

迷うのは按分が必要な経費だ。例えば自宅兼事務所の光熱費や通信費は、個人事業と法人の両方で使っている。これは税理士と相談して「面積比+稼働時間比」で按分ルールを決めた。私の場合、個人事業7:法人3の比率で計上している。

もう一つ注意しているのは重複計上の回避だ。同じ経費を個人事業と法人の両方で落とすと税務調査で指摘されるリスクがある。レシートや領収書には「個人」「法人」のメモを書き込み、freeeの摘要欄にも「個人事業分」「法人分」と明記して管理している。

判断軸③:社会保険の設計——役員報酬を最低基準に抑える理由

法人と個人事業を併営する最大のメリットは社会保険料のコントロールだ。私の場合、法人側の役員報酬は月50,000円に設定している。これは健康保険・厚生年金の最低基準を満たす金額で、社会保険料の負担を抑えつつ被保険者資格を維持する設計だ。

NDT検査の売上は個人事業で受けているため、国民健康保険・国民年金に加入している。法人側で役員報酬を上げれば厚生年金に一本化できるが、社会保険料の負担が大きくなるため現時点では選択していない。

この設計の注意点は税務署・年金事務所・健康保険組合の3者で整合性を取ることだ。役員報酬が極端に低いと「実態がない」と見なされるリスクがあるため、税理士と相談して「最低基準を満たす金額+法人側の経費で事業実態を示す」設計にしている。

将来的に法人側の売上が増えれば役員報酬を上げて厚生年金に移行する予定だが、現時点では個人事業メインの構造を維持している。

失敗回避のポイント:税理士との定期的な会話が必須

法人と個人事業の併営で最も重要なのは税理士との定期的な会話だ。私は月次決算のタイミングで「この案件は個人で受けた理由」「この経費は法人で落とした理由」を説明し、税理士から「その判断で合っている」または「こういう理由で逆にした方がいい」とフィードバックをもらっている。

この会話がないと、自己判断で運用ルールがズレていき、確定申告や決算のタイミングで修正が必要になる。税理士報酬は法人側で計上しているが、この報酬は「併営の設計ミスを防ぐ保険料」として機能している。

もう一つ重要なのはfreeeでの記帳を法人・個人で分けることだ。私はfreee法人版とfreee個人事業主版を別契約で使い、レシートや領収書を撮影する段階で「これは法人」「これは個人」と分類している。この手間を惜しむと、後で経費の重複計上や按分ミスが発生する。

まとめ:併営は「運用ルールの言語化」が設計の起点

法人と個人事業の併営は、節税メリットだけで判断すると失敗する。重要なのはどちらで受注するか・どちらで経費を落とすか・社会保険をどう設計するかの判断軸を言語化し、税理士と共有することだ。

私の場合、NDT検査の現場仕事は個人事業で受け、将来的な事業拡張は法人で設計する——この使い分けが3年間の運用で固まった。役員報酬を最低基準に抑える設計も、税理士との会話で「今はこれが最適」と確認できている。

これから法人成りを検討している人は、まず「なぜ法人化するのか」「どちらのエンティティで何をするのか」を言語化してから動くことを勧める。併営の設計は税務・資金繰り・社会保険の3軸が絡むため、自己判断だけで進めるのはリスクが高い。税理士との会話を設計の起点に据えること。

関連書籍

この記事の考え方は、以下の書籍から得た「小規模事業者の経理設計」と「法人と個人の使い分け」の示唆を、うりさん自身の併営実務に適用したものです。

新版 ひとり社長の経理の基本

井ノ上陽一『新版 ひとり社長の経理の基本』は、法人成り後の記帳・決算・役員報酬の設計を「集める→記録する→チェックする」の3ステップで整理した実務書。私が役員報酬を最低基準に抑える設計を税理士と確認する際、この本の「役員報酬は社会保険料とセットで考える」という視点が判断軸になった。

フリーランス&個人事業主のための確定申告 改訂第17版

山本宏『フリーランス&個人事業主のための確定申告 改訂第17版』は、個人事業の申告実務の定番書。法人と個人事業を併営する場合の経費按分・重複計上の回避・インボイス対応の論点を、この本で整理してから税理士と会話している。

参考

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